東京想街道
Page.53[いつかの答え]





あれからどれだけ進んだだろう

あれからどれだけため息を吐いただろう

あれからどれだけ諦めかけただろう


それでも見つからないのなら

自分で答を作ってしまえ


それが貴方の正答ならば

誰にも責められはしないから


   1

 決して広くは無い部屋の中に、キーボードを叩く音だけが響き渡る。せっかくの『休日』、冬雪は本業の方に勤しんでいた。週に2回は社会奉仕の仕事が入る状況で、本業に関われるのは残りの5日間だけだ。葵と同じで筆が速い訳ではない冬雪にしてみれば、それ以上休んでいると締め切りに間に合わない。だからと言って訳を疎かにする訳にも行かない。多少の意訳はともかくとして、いい加減な文章になってしまったらこちらの責任だ。読者が原文を読む確率はかなり低いだろうから、その作品の日本での評判が自分に掛かっている。
(……何でオレこんな事やってんだろう)
 今更そんな事を考えても仕方ない。冬雪は数分に1回はため息を吐きながら、着々と仕事を進めた。
(……ねむ)
 画面に焦点が定まらなくなってきた。冬雪は必死で起きていようと試みたが、すぐに瞼が閉じてしまう。慌てて首を振って無理やり目を開けた、その時だった。
「頑張ってんじゃーん、どうよ?少しは日本語も上手くなったか?」
その声に、冬雪は慌てて振り返った。
 声の主は葵だ。第一台詞からして間違い無い。そこには確かに、先日夢の中で会った時と同じ姿の葵が立っていた。
「ここまで来るってのもなかなか楽しいモンだな。お、俗に言えば俺って幽霊?すげぇ、今ふゆ心霊体験してる!!」
そう言って葵は爆笑し始めた。
「…………あんまり心霊って感じがしないんですけど……?」
笑う幽霊と言うのも気味が悪い。
「偏見だ偏見!いいじゃねーか別にこれでも」
不満げにそう言って葵はベッドの上に座った。布団は全く動かず、どうやら質量は無さそうだ。
「良くねェよ。……それで、何しに来たんだよいきなり……」
「あれ、パーライト・ワールドは受け入れられないのに幽霊は平気なのか。変なヤツだなお前も」
「話進めろよ!」
「へいへい。わざわざお前に仕事中断させてまで言うような事かどうかは定かじゃないけどな」
「だったら来んなよ、怖いだろ」
「……お前幽霊怖いの?」
「…………見た事無いから」
「今見てるー、今お前見てるー」
完全にこの幽霊は壊れている。
「…………話を進めろって言ってんだよ」
「今お前が心配してる先輩の秘密は――今は心配ない、昔の話だ」
「……?阿久津が言ってた?」
「そう。気になるからっていきなり押しかけて、どういう事なんだ!!とかって責めても何の結果も得られないぜ、って事を忠告したかった」
「それだけの為にわざわざ来たのかよ」
「お前、やりかねねェじゃんよ」
葵は妙に真剣な目をして言った。冬雪には何も言えなかった。
「ちょっとは落ち着いて考えろ、って梨羽も言ってんだ。いつもそうだろ?勢いで行動して、結局破滅の道進むのはお前自身の早とちりの所為だ。それで上手く行きゃいいが、上手く行かないで命落とす可能性だって無い訳じゃない。お前がStillのボス殺した時あっただろ?あの時だって、もしかしたらお前があのまま殺されてたかも知れないわけだ」
「でも……でも結果的には」
「一か八かの勝負になんて出るな。これから先、それじゃ通用しないって事を言っとく。実際に死んだ俺が言ってるんだ、信用しろ」
「……幽霊は信じないよ」
「…………頭の固いヤツだ。じゃあなふゆ、せいぜい頑張れよ」
呆れた顔をこちらに向けて、葵が軽く手を振ったかと思うと――そのまま、姿を消した。
 途端に再び睡魔が冬雪を襲った。無意識のうちに椅子の背もたれに腕を置き、それを枕にして頭を乗せる。瞼は勝手に閉じて、意識が飛んだ――……。

   *

 再び目を開けると、視界に入ってきたのは文字の羅列だった。良く見ると文章である。
「……あれ……?って、うあああああ!!キーボード踏んでる!キーボード踏んでる!!」
自分の腕でキーボードを思いっきり潰していた。慌てて画面を見直すが、どうやらパソコンの方が頭は良いらしい。複数のキーが同時に押されても、大量の文字が表れる訳ではない。
 冬雪は安堵のため息を吐いて、とりあえず今まで書いた分を保存し、パソコン画面の隅に書かれた現在時刻を確認した。
「……12時?昼?」
仕事を始めたのは朝の8時だったはずだ。それから2時間ほど続けたところで、背後から声が聴こえて――……。
「オレ2時間も寝てたのか!?」
1人で叫びまくっていると、突然部屋の扉が開いた。その音に再び驚く。
「うああッ」
「? お昼、出来ましたけど……さっきからどうしたんですか?静かだと思ってたのに、叫び声が随分……」
梨羽だった。
「え、あ、いや何でもないよ、うん!ありがとう、今行く」
「あの……無理は、なさらないで下さいね」
「……へ?無理?」
意味が判らず訊き返すと、梨羽はこちらに笑顔を向けて答えた。
「額に服の跡が。寝てましたね?」
バレている。それより先刻、自分で『寝てたのか』と叫んだではないか。バレたのは当たり前だ。
「……ゴメン、午後はちゃんとやるよ」
「だから今、無理をしないでって言ったんです――」
梨羽は少し寂しそうな顔をして、冬雪の前を歩いて階段を下りていった。
 彼女は判っていた。
 自分では無理をしていないと思っているつもりでも――……いつも冬雪は、自分の能力以上の事をやろうとして失敗する。成功する場合も無いとは言わないが、完全に上手く行ったためしは一度も無いだろう。

 だから彼女は『落ち着け』と教えてくれたのだ。今さっきの葵もそう言っていたではないか。
昔からそうだった。思い立ったらすぐに行動してしまうのが癖になっていたのだ。

(……しばらくはひとりで、考えて)

「冬雪?伸びますよ?」
「げ、麺だった!?」
何でもかんでも考えている場合でも、無いのだが。
 まだその辺りの感覚が身に付いていないのが――……自分でも、子供のようで恥ずかしかった。

   2

 紅葉通駅から徒歩5分。こうして見ると立地はなかなか悪くない。だがいかんせん問題なのはそもそもの駅が東京の田舎の急行の止まらない駅である事と、店がどう見ても怪しい雑居ビルの2階に座している事だろう。
 カクテルバー『Stardust』店主はカウンターの椅子に座って、のんびりと雑誌のページをめくりながら呟いた。
「……メシエマラソンの季節だなぁ」
メシエ天体。昔の天文学者シャルル・メシエが見つけた、彗星と見間違えるような星雲星団の数々である。それを一晩で全て見ようと言う企画がメシエマラソンだが、何せ100以上もあるので、1人でやるのはかなり辛い。
「チャールズに挑戦するなら手伝うぞ?やるなら今週末が最適だ」
 第三者の声が店主の耳に届いた。慌てて入り口に視線を向けると、そこには三宮諒也が微笑を浮かべながら立っていた。ちなみに、彼がチャールズと呼ぶのは無論メシエ氏の事だ。英語読みと仏語読みの印象の差異が面白い、と言って以前から勝手にそう呼んでいる。
 胡桃が中学の頃、彼は理科教師でもないのに天文部の顧問をしていた。尤も彼がそれなりに詳しかったのは事実だし、宇宙方面を専攻した理科教師が偶々居なかったのも事実だ。今、その学校がどうなっているかは知らない。
「せ……先生が来るなんて珍しい。え、今週末?」
「いくら俺だって瞬間的に3日後の月齢まで判る訳が無い。今週末なら俺が手伝えるってだけだ」
仏頂面でそう言って、諒也は胡桃の目の前の席に座った。それから少し考えて、尋ねた。
「……何座まで出来てるって言ったっけ?」
「先生は射手座だろ?出来てるよ」
「じゃあそれ」
「カシコマリマシタ。――……こないだの事はもう、気にして無いから」
胡桃の発言を聞いて、諒也は表情を変えないまま答えた。
「――へぇ、まだ気にしてたのか」
「気にして無いって今……」
「秋野の影響か?中途半端な天邪鬼は止めておいた方がいいぞ」
顔こそ笑っていたが、彼の言葉は確実な強制力を持って胡桃の動きを鈍らせた。
 材料をシェーカーに注ぎながら、ため息を吐く。
「……読心術でも習ったの?」
「耳が聴こえなくなった憶えは無いぞ?」
「そっちじゃないッ」
思わず突っ込んでしまってから、慌てて視線を手の方に戻した。大丈夫だ。
「まぁ、相手の口の動きで何言ってるか判ったら普通に考えて便利だな――……っと。冗談はここまでだぞ」
諒也の目は真剣なものに変わっていた。昔から、彼は決して公私を混同しない。普段の生活でどれだけふざけていようとも、仕事となれば真面目にやるのが彼の主義だ。尤も、仕事にならなければ真面目にもならないと言うのは職業教師としてどうなのかという点については、胡桃には判っていなかった。
 胡桃が何も言わなかったのを受けて、諒也は自らの話を続ける。
「この前話したのは、関係するしない、他人かそうでないか――……実際問題、その境目は何処にも無い」
「何処にも?」
「敢えて引くとすれば、その人物と会って会話をした事があるか否か。でもそんなものを基準にしてまで分ける必要性は、何処にも無いだろう」
諒也はそこまで全く表情を変えず、まるで台詞を用意して来たかのようにすらすらと喋った。もしかしたら、本当に用意していたのかも知れない。彼にとって、ある意味それこそが仕事だ。
「藍田の場合は時既に遅し……かな。今更意味もなく境界線を引いて、藍田の事を他人扱いしたところで――……多分、誰も何の得もしない」
その言葉を聞いて、胡桃は酒をグラスに注ぎながら反論した。
「……じゃあ、何でこないだはあんな風に言ったんだよ」
「やっぱり気にしてるじゃないか。――……先に『他人』だって言い出したのはお前だぞ?」
苦笑しながら言われて、胡桃はその時の事を思い返した。
梨羽も決して弱くは無いと言った諒也に対して、他人が勝手に言っているだけだと返したのは確かに胡桃だ。そこへ来て諒也が、その場で一番『他人』だと言いやすいのは胡桃だと――……そう言ったのだ。
 だとすれば、胡桃が彼を責める権利など何処にも無い。
「俺は別に、気にして無いぞ。確かに他人には違いないしな。ただ――中途半端に関わるぐらいなら、関わらない方がいいと言いたかった」
「俺は中途半端になんて思ってない」
胡桃はグラスを諒也に渡しながら言う。胡桃の顔を見て、彼は苦笑しながら答えた。
「あぁ、判ってるよ。俺が怖かっただけだ。何も……そんな必要は無いのにな」
「……ゴメン。あの時は感情的になってたし」
「どうして胡桃が謝る?」
急に名前で呼ばれて、少し戸惑った。
そういえば、中学に上がる以前にも――……少しの間彼と、付き合った事があったか。
あの頃は何も考えていなくて、ただの知り合いでしかなかったのに。
 妙な、気分になった。
 答えなくては――。
「……上手く、言えないけど……ただ何か、俺が悪いような気がして」
「謝らなくても構わないさ」
軽い調子でそう言って、彼は白色の酒を一口だけ飲んだ。
「この話は終わりにしよう。いつまでもこんな雰囲気じゃ堪らないぞ」
「……うん」
少し納得がいかなかったが。
次に何を話そうかと胡桃が考え始めると、諒也は間髪入れずに次の話題を開始した。さすがだ。
「――今は実家に居るんだってな」
「え……うん。言ってなかった?」
「お前の口からは聞いてない。親御さんから聞いたよ」
「げ。何で会ったんだよ」
諒也と会ったなどと言う話は聞いていなかった。彼は嬉しそうに笑って答える。
「『近所にご挨拶』。尤も……また帰ってきたので宜しくお願いします、止まりだけどな」
「!!」
また戻ってきたのか。冬雪が帰ってくる前に住んでいた羽田杜の家は既に売ってしまっているらしいから、恐らくはそこではない。第一、それでは胡桃の家は近所ではない。となると、『校長』にはとても似合わない、普通の小さなアパートに――だ。
「まぁ、とりあえず今言う事は『これからも宜しく』かな」
「……どっか新しく買えばいいのに。金はあるんだろー?」
「しばらくは一人なのに、そんな事に使えるワケが無い」
「何で家族で来ないんだよ」
「色々あるんだよ。まぁいずれはこっちに来ると思うけどな……」
結局胡桃には判らなかった。
 それからしばらく、普通の世間話をして――彼は帰っていった。
 こうしていれば、やはり普通の人にしか思えない。どうして彼は、あんなに面倒な事に巻き込まれるハメになってしまったのだろうか――。

そう考えると、何事もなく平和に暮らしている自分があまりに『幸せ』過ぎて――……逆に、申し訳なく思えた。

   *

 三宮諒也は自宅に帰る途中だった。静かな暗い夜の銀杏並木の下を、ひとりゆっくりと歩いていた――……その時だった。
「ようやくお帰りですか。遅かったんですね」
何処かで聞いたような声が、彼の耳に届いた。彼が顔を上げると、そこには見覚えのある人間が立っていた。改めて見ると、相手の視線は自分よりも高いところから向けられている。不思議な気分だ。

――阿久津秀だ。

久し振りだが意外すぎる人物の登場に、諒也はかなり驚いていた。
「……阿久津?どうしてこんなところに」
「貴方を待っていたんですよ。何処へ行っていたのかは知りませんでしたが、家に居ないと言う事はいずれ帰ってくると言う事ですから」
家の前で待っていれば、家に帰ってくる人間には必ず会えるはず、である。
「ご苦労様、だけど……どうしてまた俺なんかを待ち伏せしてたんだ?」
「貴方と直接話がしたかったんですよ、先生。――なかなか興味深いデータをお持ちだ」
「……?どういう意味だ?」
何の事を言われているのか、最初は本当に判らなかった。
「1990年夏が最初の記録。それからしばらくして、1992年頃から『孤高の狼』と呼ばれ始める」
言われて、諒也は慌てて秀の方を見た。それは諒也にとってみれば――……余りにも、耐え難い事実。
 秀は表情を変えず、尚も続けた。
「1995年、3月に除名。――何の事かはお判りですね?」
「何処で知ったんだ?もう名は残っていないと思ってたのに」
諒也が焦って尋ねると、秀が嘲笑に近い笑いを浮かべて――答える。
「甘いですよ。僕を誰だと思ってるんです?調べるのは簡単でしたよ。昔のデータベースは、全て警察が押収したんです」
「……!」
秀の勤務先は警察だった。
「まぁだからと言って僕が貴方を捕まえてどうしようと言う訳じゃありませんけど――。でも、過去は決して棄てられません。僕も、貴方も」
諒也は黙り込んだ。
秀は更に、続ける。
「いずれは秋野も気付くでしょう――……あるいは、貴方自身に尋ねるはずです。一体どういう事なのか、と。もしそうなった時に、貴方がどのように対処するか――……それが気になっているんです」
「俺の事に構う意味は何処にあるんだ?別に、そこで俺がどう反応しようと、阿久津には関係ないだろう」
「そうかも知れませんが、関わりはあります。――……貴方は僕の父親を知っている」
「……!!」
秀の表情は少しだけ変化した。
確か、彼の父親が亡くなったのは彼がまだ幼い頃のはずだ。だとすれば、昔の父親の事を知っている人間に興味を抱くのは自然な事か。
 だが――……だからと言って。
「俺じゃ参考にもならないよ。彼と話をしたのはそう何回も無い」
「でも知っている事に変わりは無い。――先生、これは賭けなんですよ。最後の『仕事』から、今日で何年ですか?」
「……悪いが計算は苦手なんだ」
「必要ありませんよ。訊いてみただけです――……14年と数週間。まだ全然、足りません」
諒也は秀の事を睨み付けた。態度が気に入らなかったからだ。
だが秀は小さくため息を吐いて、更に続ける。
「だから、これは賭けなんですよ。犯罪者に違いのない貴方と、警察である僕との取引です。乗るか乗らないかは貴方次第ですが、乗ってしまえば圧倒的に有利ですよ」
だがもし乗らずに完全に犯罪者扱いされた時には、葵の事件も自分がやったということになりかねない。
「……俺とお前とは味方同士、なのか?」
「えぇ。バレればその瞬間にジ・エンドですけどね」
ニヤリと不敵に笑い、秀は身体の向きを自宅方向へと替えた。
「理不尽さが、身に沁みるんですよ。まるで自分の事のように思えるんです。
 もし貴方がその頃にしていた事が公になれば――……CECSの社会的地位はまた下がっていく。それが奇妙しい。その頃貴方はまだ、CECSとは認定されていないはずですからね」
未完成のCE享受者は危険だと――……何度も聞いてはいるが、いまいち世間に浸透しているとは言いがたかった。
 だが、少しぐらいは今の社会を信用したいという気持ちもまだ、諒也の中には残っている。
「実際そうなってみてどうなるかはまだ判らない」
「いえ、確実ですよ。CECSは過去にそういう事件を必ずひとつやふたつ起こしているモノ、というイメージが出来上がってしまいますから」
「……阿久津はどうしてそんなに俺たちの事を心配してくれるんだ?別に、そこまで関係している訳じゃないだろう?」
疑問は晴れない。秀は自宅方向を向いたまま、諒也の方を向かずに答えた。
「CE享受者である事に違いはないんです。元々、Stillがどのような事を目的として設立されたかご存知ですか?」
「……いや、知らない。ただの殺し屋集団かと」
諒也が答えると、秀はそれを聞き一呼吸だけ置いて、静かな調子で続けた。
「“CE享受者という被害者”の、いわば組合のようなもの。それが何故か色々に発展して――……最終的にはCE制度を作った夢見月家が標的になった」
「!」
「彼らもあながち間違いではなかったんです。ただ――……妙な方向に、曲がって行ってしまって、それが戻って来なかったから……まぁ逆に、夢見月家には『暗殺者集団』としか伝わらなかったようでしたから、それはそれで好都合でしたが」
諒也は黙っていた。秀が続きを話すのを待っていた。
 十秒ほど、沈黙。
 彼は突然振り返った。
「――……先生。貴方に、期待しています。あの頃のままの世の中を――……何とかして、正常に戻して欲しいんです」
「そんな事は俺じゃなくて、」
「毒をもって毒を制しましょう。聖者だけが英雄とは限りません」
そう言い残して、秀は去っていった。そのまま自宅方向へと向かっていく。
 その姿を眺めながら、諒也は独り言を呟いた。
「……随分とまぁ、キザな台詞を……」
そんな事を言っている場合ではない。
「毒って事がバレてるんじゃ、一体誰が食べてくれるのやら――……」
諒也は自分で自分に呆れ、天に向かってため息を吐くと――……春とはいえ肌寒い夜の空気の中を、自宅へと走った。



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