形と探偵の何か
Page.11 「犯罪と先生」




      1

「……久し振りだな」
岩杉は席でアップルティーを飲む女性に向かって手を振った。彼女は岩杉に対してニッコリと微笑み、彼が正面の席に座るのを待って答えた。
「ええ」
「今日は何なんだ?呼び出したりして」
「特に大きな理由はないわ、ちょっと話がしたかっただけなの」
「話?」
「久し振りだしね?」
女性は人差し指を立てていたずらっぽく笑った。

「……それで、雑談をしにここへ呼び出したって訳か」
「だーって、普段は幼稚園とか家事とかあるからこっち来れないでしょ?せっかく休んでいいって言ってもらったから、ちょっとぐらいと思って」
「だったら俺なんかじゃなくて祖母さんとか色々いるだろう」
「諒と話がしたかったのよ」
紹介しよう。この女性の名は冬村梨子33歳、結婚していて姓は違うが岩杉の姉である。そして、その結婚相手が冬村銀一、4歳の愛娘が奏梨だ。普段は横浜のどこだかに住んでいるらしい。
「何か話したいこととかあるのか?」
岩杉は注文したコーヒーを一口飲んだ。
「だって諒、あの話知らないでしょ」
「あの、話?」
いきなり『あの』話などと言われてわかるはずがない。
「諒はニュースとかよく見るほうよね」
「あぁ」
「それじゃあ、最近の夢見月家の噂は知ってる?」
「……夢見月?」
夢見月家の噂、というのは、夢見月についての噂なのか、夢見月家に広まる噂なのか。どちらにしても、冬雪からは何も聞いていなかった。
「知らない」
「ふぅん。それじゃ、銀一さんについても知らないんだ」
「はぁ?」
どうしてそっちに行くのだろうか?まさか、銀一や梨子が夢見月に関わりあいを持っているとでも言うのだろうか。岩杉の耳には、そんな話は入ってきていない。
「最近起こった強盗事件でねー、犯人が銀一さんじゃないかって言われてるの。銀一さんは絶対違うって言ってるんだけどね……」
「おい、どういう意味だ?」
「あれ?あ、そっか、諒言ってなかったっけ!!ゴメンゴメン、あの……その、えっと」
「冬村銀一は、夢見月家の人間なのか?」
その時の岩杉がどういう顔をしていたのか、梨子は緩やかにウェーブの掛かったショートの髪を梳いて時間を稼ぎ、小さな声で答えた。
「そう、なの」
「……どうして最初に言ってくれなかったんだよ」
「だって諒、そういうの嫌いでしょ?言ったら、許してくれないと思って」
梨子は両手を合わせて謝った。
「まぁ……今は別に」
「あら?何かあったの?」
梨子の表情がコロッと変わった。まるで子供だ。
「今担任してる生徒に、その……居てな」
「え?諒の担当ってえーっと確か」
「2年」
顎に軽く手を添え、梨子は視線を天井に向けた。思い出しているらしい。
「中2、14歳、緑谷……あ、それなら1人ね、冬雪君だわ。そうでしょ」
梨子は嬉しそうに手を叩いた。
「そう」
「……じゃあ、冬雪君が夢見月なのは知ってるのね?それならもう怒らないのよね?」
「もう遅いからな」
「あはは、ごめんね。それで、本題に入らなきゃ」
「本題……?」
それなら早く言ってくれないか。

「『Y殺し』って、知ってる?」

――梨子はニヤリと笑った。

      *

「『Y殺し』?それって、夢見月の人間を殺してくって奴だろ?知ってるが、そいつは数年前に消えたんじゃ」
最後の予告を残して、忽然と姿を消したのだ。それ以来、事件は全く起こっていない。そいつの所為で殺害されたのは5人に上る。
「それがね、また現れそうなのよ」
「現れる?」
「予告状が家に来たの。『今週中に夢見月の名を持つ誰かを我が7人目の生贄にする』って」
「今週中……」
「私がこーして出掛けようと思えたのは、それだけ自分の命に自信があったから」
笑っている場合ではないではないか。
「夢見月の名を持つ、ってことは、姉さんも襲われる可能性があるってことなんだろ?」
「冬雪君だって同じよ」
「それは勿論、そうだが」
いきなり彼が襲われるなんてことは――あって欲しくない。
「とにかく気をつけといてくれよ」
「冬雪君は奏梨の心配してたわ」
「……それこそ怖いこと言うな、あいつも」
冬村奏梨はまだ4歳――さすがのY殺しもそんな幼子を狙うまでのことはしないだろう。
「銀一さんとか……怖いわね」
「物騒なこと言わないでくれよ、姉さん」
誰が襲われるかなどと予想を立てている場合ではないだろう。
「最後に殺されたのはお義母さんだったわ」
「……そういえばそうだったな」
前当主が最後の被害者だった。

――最初に狙われたのは先代の者達だった。1番初めには前当主のすぐ下の妹。続いてその下の妹。更にその下、その下、と続けて襲われていった。
 週に1度起こる事件に、世間も共に震え上がっていた。犯人は夢見月家の人間以外は襲わないことを明言していて、最後の被害者となってしまった前当主は、インタビューに対して犯人は『偽善者』だと答えた。
 世に被害をもたらす夢見月の者達を成敗するとでも考えているのか、それとも単なる個人的な恨みなのか――。どちらにしても、人を殺めていることに違いはなかった。

      2

「夢見月の名を持つ誰かを襲う、だったな」
「ええ」
「……嫌な響きだな」
「そんなのいつだって同じよ。でも、夢見月姓の人間が何人いるか覚えてないのよねー」
「相当いるんだろうな」
冬雪たち当代姉妹の子供だけならまだしも。
「想像もつかないのよ。家にいりゃいいってものじゃないでしょ?雪子さんと夕紀夜さんの子はあそこに住んでないし。むしろそっちのほうが不安だわ」
――夏岡雪子のことはよく知らないが、確かに無防備ではある冬雪に不安は残るかもしれない。
「でも酷いと思わない?誰が襲われるか判らないんじゃ、警戒のしようもないのよ……香子さんとか、私は絶対襲えませんようにって言って、警備とか思いっきりたくさんつけようとしてるんだけどね。あたしとかは全然関係ない感じ」
「そういうのが狙われるんだよ、姉さん……」
「あっ、でも今はそれより、銀一さんの濡れ衣を取り払うことよ!強盗なんかやる人じゃないもの!!」
梨子がアップルティーの入ったカップを机にガン、と置いた。零れなくて良かったが。
「諒もそう思うでしょ?銀一さんはそんな人じゃないわよね!」
「あぁ……そうだろうな。それに案外、夢見月って言っても、大半は悪い人間じゃないんじゃないか?」
「……汚染されかけてるわ。冬雪君の影響?雪子さんなんかはあれよ?道交法違反しまくってるって噂なんだからね?もーちょっと一般人らしくしてなさいよ、一般人なんだから」
「……?」
「一般人は夢見月に対して反対の態度でいなきゃダメよ?」
梨子は笑って言ったが、主旨はどこにあるのか判らない。
「だから……本来一般人であるあなたが夢見月に染まって、まかり間違って仲間に入れられたらどうするつもりなの?あなたが例えばほら……雪子さんの子供と結婚することになったりとか!そんなことになったら、諒だって犯罪戦争に巻き込まれることになるの。そんなの嫌でしょ?」
――そんなことを語る立場か。それなら梨子は、それを承知で結婚に至ったと言うのか?
梨子は前に乗り出し、岩杉の目の前で釘を刺す調子で言った。
「確かに彼らの中には、まともな頭を残してる人間もいる。だけどね……言っとくわ。大半は狂った人間……狂人なんだからね」

――狂人。
頭の中にそのフレーズが木霊する。
 かつて夢見月の人間全てに貼られていたそのレッテルは、冬雪の母親である夕紀夜が突然家を飛び出した時から次第に消えていった。

――彼らの中にも、まともで救いのある人間がいる。
今はようやく、世の中にそう認知され始めてきている。それでもまだ、『夢見月家』と言えば悪人の代名詞とでも言うように扱われているのだ。だからこそ、冬雪などは通名で隠している。銀一もそうかも知れない。彼はあの家の中でも特に真面目で仕事熱心な人材ともてはやされている。
 そういえば、冬雪の母親は病気で亡くなる前は今の彼同様ペット探偵として活躍していたと聞いている。無論、当時は町内限定ではなかったようだが。

 岩杉がこんなことを語るのもなんだが、姉と生徒が家の一員である以上、関係者ではないともあながち言い切れない。しかし梨子はだからと言って夢見月家に同情するなと、そう言いたいらしい。
 確かにここで同情してしまったら、梨子の言うように仲間に引き込まれる可能性はある。岩杉自身が世間から外れた人間になってしまうのか――狂人と呼ばれた夢見月家の一員となってしまったら、岩杉はどういう立場に置かれるのだろうか。敢えて夢見月へと足を踏み入れるその勇気を、称えては貰えないのだろう。
「じゃあ姉さん……まともな人間と、狂人を見分けるにはどうすればいいんだ?俺には何も判らないんだが」
「あたしにも判らないわよ。人間、付き合ってみないと判断出来ないんだから。そうでしょ?あなただって知ってるはずよ。一見お坊ちゃまお嬢様で真面目そうな生徒が居たとするでしょ。でも実際は物凄い不良のガキって可能性もあるじゃない」
『物凄い不良のガキ』ではないのだが、一瞬藍田胡桃の名が浮かんでしまった。岩杉は心の中で彼に謝る。
「それじゃ……結局は簡単に判るもんじゃないんだろう?じゃあどうすればいいんだ?」
「それは簡単。付き合わなきゃいいの」
梨子は大分冷めたアップルティーを飲み干す。
――付き合わなければいい?
「な、何をっ」
「だって、そうじゃない?関わらなきゃ、危ない目に遭うことなんか絶対無いんだから。それに……諒は夢見月家に足を運んでみるつもりがあるわけ?そうでもなきゃ、見分ける方法なんか知ってる必要ないでしょ?」
行ってみる気……否、行ってみたい、という感はあった。何故かは判らないが、梨子が自己を保てているその家に、冬雪が半分は認めつつあるらしいその家に、実態を知りたいという気持ちを抱いていた。
 しかし、梨子はそれを認めようとはしないだろう。
 彼女にとって『まともな一般人』である岩杉には、あの家に入り込んで欲しくないのだ。彼女の気持ちも判らないではないが、今のところ配慮よりも興味のほうが勝ってしまっているらしい。岩杉にそれをセーブするだけの力はなさそうだ――。
「諒は彼らを甘く見過ぎてる。幾ら彼が――冬雪君が平気でも、貴方には平気じゃない可能性が高いの」
「え?」
「彼には抗体が出来てるもの。彼ら一族に生まれた時から備わっていると言っても過言じゃないかもしれない……そう、彼らの中に居ても自我を保っていられる、それだけの精神を持ち合わせているわ。勿論、貴方を卑下してる訳じゃないの。貴方は『いい人』だから、彼らに染まってしまう……すぐにね」
梨子の目が妖しく光る。姉が以前から時々見せる、人を魅了する視線――。
「冬雪君のことは仕方ないわ。関わらないわけにいかないから。でも、他の人はやめておいたほうがいい。もし、冬雪君自身に勧められたとしても。あの子はまだ、諒のことを理解しきれてないはずだから」
「どうして姉さんがそこまで言い切れるんだ?」
今度は逆に岩杉が険しい表情で言った。
「俺とあいつのことは、姉さんの干渉できる範囲じゃないだろう?俺がその家に行かない方がいいことは判った。だが、俺は少なくともあいつら――生徒のことは信用するようにしてる。バレバレな嘘は除いても……秋野に関しては、妙な嘘を吐いた遍歴はない」
「そう言い切れる?相手は犯罪のプロよ、知らないの?あの子だって……拳銃くらいは軽く……簡単に扱えるのよ?一時期はそういう教育受けてるんだからね。いつ貴方に銃口を向けるか判ったもんじゃないわ」
「姉さんは秋野の敵に回っているのか?」
「ある意味ではそうよ。あたしは直系の夢見月の人間はあまり信用したくないもの。銀一さんは除いても」
「さっきは味方に付いていたじゃないか!」
岩杉は無意識にテーブルを叩いた。危うくコーヒーが零れそうになった。
「あぁ……あれは貴方に反対されたくなかったからよ。担任してる生徒なら、庇護したくなるのがサガでしょ?特に貴方なら。それが原因で姉弟、別れたくなかったんだもの。諒、あの子と付き合い始めて何年目?」
「……2年。もうすぐ、3年目に入る」
彼が中学に上がってからは、ずっと担任だ。
「じゃ、あの子と他の生徒が、ケンカしてたりするところ、見たことある?」
「小さな口ゲンカくらいなら」
「まぁいいわ。そういう時、どう?あの子の様子」
「どう、って言われても――」
ケンカとは言っても、意見の張り合いとかその程度であって、彼の様子と言えば?
(……あ)
 随分前、多分、1年の始めの頃だっただろうと思う。冬雪が張り合っていた相手は、気が合わなかったらしいワルの1人――他のクラスの生徒だった。

―――お前、ここから飛び降りられるかよ?

そいつは、教室の窓を開けて言ったという。そこは3階だ。

――うん。

対する冬雪の答えは、笑顔での肯定だった。
 そいつは驚いて、じゃあ飛び降りてみろ、と言ったらしい。冬雪は本当に窓枠に乗って、片足は既に乗り越えていた。しかしそこで、他の生徒たちが慌てて助けたという。
 後から、胡桃たちに聞いた話だ。真偽は確かではないが、真実だろう。
 岩杉はこれを正直に話した。
「ふぅん、随分冴えてるのね。彼らは――自分を犠牲にしようが構わない。そうまでして、犯罪行為に及ぼうとするの。ま、それが生きがいみたいなものになってるのね」
「今日の姉さんはどこか変だ」
いつもの梨子なら、ここまで人を脅かすようなことは言わないはずだ。もっと、優しい口調で、もっと親切に――。
「貴方の知る『冬村梨子』とは違うもの。だって、あたしだってあの子に酷い事言われたんだから!さすがのあたしだって狂うわよ!1つ言いたいのは、貴方の知ってる『秋野冬雪』も、違うわ、あんなのは正体不明の化け物なんだから!」
「姉さん!しっかりしろ!!意識を保て!」
「あぁ……あたし何言ってたのかしら……どうにもならない、全てあの子の所為だから」
「姉さんに原因があるんだろう?あいつは単純な事じゃ怒ったりはしない。何か……あいつを貶すようなことを言ったんじゃないのか?」
「そんなのは本人に訊いて!」
――姉さんが壊れる!
「判った……この話は終わろう」
「……そうね」
梨子は額に手を当てて溜息をついた。
「とにかく貴方は、傍観者になっていて貰いたいのよ。決して、当人になっちゃいけない。諒が仮令あたしの弟でも、仮令冬雪君の先生でも」
「…………判った」
「だから、たとえあの子が狙われていると判っても、手を貸しちゃダメ。そんなことしたら、次は貴方が襲われることになるんだからね。これは、あたしの姉としての警告。いい?」
「判った」
梨子はまた溜息をついた。
「……今日は、この辺にしていい?」
「え?あぁ……構わない」
「それじゃ、ゴメンね。また今度」
「……・あぁ」
どこか物足りない気がしたが、梨子がそう望むなら仕方ない。結局、この日はこれで会見を終了せざるを得なかった。

      3

 3月の日本人形。店内にはのんびりとお茶を飲む流人と、雑誌と商品に没頭する冬雪と胡桃、ルービックキューブで遊ぶ詩杏、そして岩杉が居た。
(何だか気まずいんだよな、あの話聞いてから)

――あんなのは、正体不明の化け物なんだから!

梨子の悲痛の声が脳裏に蘇る。その『正体不明の化け物』は、『物凄い不良のガキ』と談義しながら商品の小物の用法を確認しているところだった。
(しかし姉さんは一体……何を言って怒らせたんだ?)
 岩杉でも、ほとんど彼を怒らせたことはない。それなのにあの梨子が怒らせてしまうだけのことを言った――。
(姉さんが言いそうな言葉――思いつかないな)
岩杉は前髪をかきあげ、そのままぐしゃぐしゃと頭をかき回した。
(……一体なんなんだ、あいつも、姉さんも)
当人は全くそんな様子を見せず、商品の機能を確認して笑っているだけだ。時々流人の方を見ては話を聞いて、けらけら笑い続けている。いい加減にしないと顔の筋肉が痛くなってくるだろう。
 とにかく――。
 岩杉が悩みに悩んでいる時だった。
「お茶でも飲みませんか」
流人が、岩杉に湯のみを差し出していた。――岩杉はそれを受け取って、もくもくと立ち上る湯気を眺めていた。
「何をそんなに、悩んでいるんです?」
流人は岩杉の横の椅子に座り、小さめの声で言った。
「……あいつはやはり、夢見月なのか」
「秋野君ですか?」
「ああ」
「それが事実ですから……仕方のないことなんでしょう」
「でも、俺にはそうは思えない」
「性格は確かに温厚で、一見してそうは見えませんね。でも――人間なんか、外見で判断なんか出来ませんから」
流人はお茶を一口だけ飲んだ。
「それはそうなんだが」
「人間、そんなものです。ボクはこれまでに痛いほど感じてきましたからね」
こちらを見て笑う流人は、いつになく大人らしく見えた。――さすが、400年の長きを生きる妖怪だからこその気迫だろうか。
「彼、先日、襲われたらしいですね」
「襲われた?」
「ええ……本人から聞きました。でもまぁ、詳しい話はボクも聞いてないんですが、怪我はないそうです。それがどういう状況で、って言うのは全然知らないんですけど」
「襲撃事件か」
岩杉は未だに笑い続ける彼のほうに視線を向けた。
「確か――テストの終わった次の日とか」
「まだ何日も経っていない……それに、休み中何かあったら連絡するようにって、学校から言われてるのに」
「それは、個人的に?」
「そんなことはない、全校生徒にだ……勿論」
もう、あさっては修了式。春休みも近いのだ。
「何かあるのかもしれませんね、重大な何かが」
「重大な、何か」
岩杉はその部分を復唱して、ようやく落ち着いたらしい彼の所業を窺った。彼は、簡単な仕掛けのビックリ箱に、本当にビックリしていた。今時そんな純粋な子供がいるのかと感心したほどだった。
「そういえば流人、自称『情報通』だったな」
「自称ってのはつらいですが、そうです」
流人は渋々ながら認めた。
「Y殺しが復活するらしいっていうのは、知ってるか?」
岩杉はなるべく小さな声で、流人にだけ聞こえるように言った。流人は一瞬冬雪の方を窺ってから、同じく小さな声で答えた。
「―――……はい。近所にいる犯罪マニアが出入りしてますので」
「それはまた頼もしいな、『情報通』には」
「はは、まぁ。それで、彼も気にはしてるようです。どこからそんな情報を仕入れてくるのか……今は、誰が狙われるのかが気になっているようですよ」
「標的、だな」
岩杉は姉の言葉を思い出す。

―――夢見月姓の人間が、何人いるのか判らないのよね。

「その人に訊いてみてくれないか?もし、予想がついたら教えてもらえるように」
「言わなくても教えてくれると思いますよ。でも、予想がつきそうにない、とも言っていました」
「さすがに人数が多いか」
えぇ、と流人は苦笑して、お茶を飲み干す。
「――……今度、会ってみませんか?案外、いい戦力になってくれるかも知れませんよ。なかなか、いい人ですし」
「別に、構わないが……」
「兎堂勇雅くんという―――……高校生です」
その言葉に、その場が一瞬凍り付いた。

「高校生…………だって!?」

ほとんど無意識で叫んだ岩杉に、4人の視線すべてが集まった。

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